大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(ツ)141号 判決

原判決は適法に左記の事実を確定している。すなわち、訴外大町敏はプラスチツク成型加工業を営んでいたところ、昭和三十三年九月頃不渡手形を出して、銀行から取引停止の処分を受けたが、営業を継続するためには銀行当座預金取引が必要であつたので、その息子である上告人名義を用い、訴外城南信用金庫大森支店と当座預金取引契約を結び、上告人名義の約束手形をもつて、商取引の決済をなしていた。上告人は敏に対し自己名義を上記当座預金取引に使用すること並びに敏の営業に関して上告人名義で約束手形を振出すことを承諾しており、敏は昭和三十五年二月十三日頃上告人自身が使用していた上告人の記名印及び認印を使用して本件約束手形六通を振出し、被上告人は現に右各手形の所持人である。

原判決は、大町敏は自己の取引上の債務を決済するために、上告人から同人名義の約束手形を振出すことについて得ていた事前の承諾に基き、本件約束手形を振出し、上告人は敏が自己の署名の代行機関として本件約束手形を振出すことを承諾していたものと認めるのが相当である、との判示をなしている。しかしながら、本件約束手形は記名捺印の方式によつて振出されたものであることは前段判示のとおりであるから、右原判決が署名の代行機関としてなしたと判示しているのは正確を欠くばかりでなく、署名又は記名捺印の代行による手形行為は、他人が本人の指図に従つて、本人のために本人名義の手形行為をなすのであつて、本人がその手形行為の主体であり、署名又は記名捺印の代行をなしたものは本人の単なる機関に過ぎないものである。上記原判決の認定した事実によれば、上告人はその氏名を使用することを許諾したに止まり、約束手形の振出等は敏の自由な意思決定に基いてなすことができるのであつて、敏自身が手形振出の主体としてこれをなすものであるから、単に上告人の指図に従つてなす機関であると解するのは正当でなく、従つて、上告人は敏が自己の署名の代行機関として本件約束手形を振出すことを承諾したとの原審の判断が誤りであることは上告人主張のとおりであるといわなければならない。

原判決が、上段認定のような事実関係のもとにおいては、上告人は敏のために包括的な与信行為をなしたものと認むべきであるから、上告人は本件手形金を支払う義務があると判断しており、その趣旨は必しも明確ではない。しかしながら、他人に対し自己の名義を使用して、一般的に手形を振出すことを許諾した者は右他人が自己の名義をもつて振出した約束手形については、その振出人の名義を信用して手形を取得した善意の第三者に対しては、振出人としての責任を負うものと解するのが、商法第二十三条その他に現れた法律の精神であると解するを相当とする。上記判示のように、原判決の確定した事実によれば上告人は、敏が不渡手形を出して銀行の取引停止処分を受け、同人名義をもつては当座預金ないし手形取引をなすことができなかつたため、上告人の信用を利用して当座預金口座を設け、かつ約束手形を振出すものであることを十分に承知しながら、上告人の信用を利用させるためにその氏名を使用することを承諾したのであるから、上記当座預金取引の操作が敏の資金によつてなされ、上告人はなんら与り知るところがなく、かつ、右当座預金口座を利用したことがなかつたとしても、上告人は与信者として、上記商法第二十三条によつて現われた法律の精神によつて本件約束手形については振出人としての責任を負うものであるといわなければならないし、上記の原判決の理由はその意を尽してはいないが、その趣旨は右のような趣旨であると解し得られないではない。そうだとすれば結局において原判決の右判断は正当であつて、原判決には上告人の主張するような判決に影響を及ぼすことが明かな法令の違反はないことに帰するから、論旨はその理由がない。

(村松 伊藤 杉山)

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